- 記事公開が週1回のプロダクトリリースのサイクルに連動しており、タイムリーな情報発信ができない
- エンジニアが記事更新作業に対応する必要があり、本来のプロダクト開発に集中できない
- 記事入稿の機能追加に伴う入稿形式の独自化が進み、開発や記事入稿における学習コストが高くなっていた
- いつでも記事の公開・修正が可能になり、マーケティング施策のサイクルが改善
- コンテンツ管理にかかるエンジニアの対応工数がほぼゼロに。本来の業務に集中できる体制を実現
- チームメンバーが誰でも直感的にコンテンツ運用できる環境を構築
株式会社IVRyは、対話型音声AI SaaS「アイブリー」を提供し、音声データとAIを掛け合わせることで、電話応答の自動化・効率化を支援している企業です。
同社では、サービスサイト全般でmicroCMSを活用し、導入事例記事やお役立ち記事、プレスリリース、広告用ランディングページ(LP)の管理を行っています。今回は、プロダクトマネージャーの宮嵜涼志さんとエンジニアの佐川善彦さんに、導入の背景から効果、今後の展望についてお聞きしました。
導入の背景:事業スケールが拡大し、コンテンツ運用の課題が顕在化
microCMSを導入した背景を教えてください。
-宮嵜さん
弊社では対話型音声AI SaaS「アイブリー」を提供しています。AIが自然な電話対応を行い、通話データを解析して改善提案なども行うサービスで、飲食店やホテル、病院、オフィスなど様々な業種のビジネスシーンで活用されています。これまで、「導入事例」「お役立ち記事」といった記事やランディングページ(LP)を多数作成し、マーケティングや広告施策に活用してきました。

-佐川さん
以前はCMSを使わず、これらのコンテンツをアイブリーのプロダクトそのものに組み込んでいました。当初はCMSを導入するよりも素早く簡単に公開する手段として合理的だったのですが、プロダクトの規模が大きくなり記事数も数百件に増加すると、様々な課題が顕在化してきました。
記事を公開するためには、エンジニアが入稿記事のデータをプロダクトに取り込んだ後、プロダクトのリリースをする必要がありました。そのため、記事を公開したいタイミングの調整には少なからずコストがかかり、新規投稿や更新を行う場合は基本的には週1回のサイクルで反映する運用となっていました。

-宮嵜さん
誤字脱字のような軽微な修正をしたいときも、エンジニアに差し込みの作業を依頼するか次の更新タイミングまで待つかという判断が必要になり、社内の調整コストも高くなっていました。マーケティング施策の観点では、更新のスピードが遅れることに加え、時勢に合わせた情報発信ができないことも制約となっていました。
-佐川さん
さらに、記事数が数百件に増えるにつれて、リリースにかかる時間のうちの大半を記事生成の時間が占めるようになり、リリースにかかる負荷が増加していました。加えて、記事入稿の機能追加に伴い記事生成に関するロジックも複雑化する傾向にあり、プロダクトの保守性も低下していくことが懸念されていたんです。
エンジニアが本来の力を発揮すべき新機能開発に集中できない状況は、改善すべき重要な課題として認識されていました。運用面でも開発面でも課題感が蓄積され、記事更新作業を主に担当していたエンジニアからの「記事に関する業務負荷が高くなってきている」という声をきっかけに、CMSを導入することに決めたんです。
microCMSを選んだ決め手も教えていただきたいです。
-佐川さん
記事の運用を変更するにあたり、属人的にならない体制を整えたいと考えました。オールインワンタイプのCMSも検討したのですが、これまで同様に「CMS対応の専任者」ができてしまう未来が容易に想像できたんです。ヘッドレスCMSであれば、汎用性の高いフレームワークを自由に選択でき、今後チームの人数が増えてもスムーズにスケールできると判断しました。
また、ヘッドレスCMSの中でも、セキュリティ管理をCMS側で担保してくれるフルマネージドサービスを優先しました。運用負荷を下げることがCMS導入の一番の目的だったため、セキュリティについて自社で意識しなくてもいいものを選びたかったんです。
最終的な決め手となったのは、既存の数百件の記事を一括移行できるかどうかでした。プロダクト開発の手を止めてCMS導入作業をするため、記事の移行に大きなコストをかけるわけにはいきません。APIが開放されていて、自動で移行できる仕組みをもっとも作りやすそうなのがmicroCMSでした。

活用の状況:30人以上がコンテンツ運用に携わり、LP作成にも活躍
現在どのようにmicroCMSを活用していますか?
-宮嵜さん
導入事例記事やお役立ち記事、プレスリリース、コーポレートサイトの一部に加えて、広告用ランディングページ(LP)にもmicroCMSを活用しています。LP作成では、ターゲットに応じてセクションの表示・非表示を切り替えたり、ボタンのラベルや表示数を変更したりといった詳細な設定もmicroCMSで管理しています。
技術構成を教えてください。
-佐川さん
microCMSの導入にあたり、記事生成のための環境も新規に構築しました。フロントエンドのフレームワークには、インクリメンタルビルドに着目してGatsbyを選定しました。
microCMSで作成した記事データをAPI経由で取得し、静的なHTMLを生成しています。デプロイはGitHub Actionsで自動化されていて、microCMSの管理画面で「公開」ボタンを押すと、WebhookがトリガーされてGitHub Actionsのワークフローが実行されます。Gatsbyで生成されたHTMLがAWS S3に格納されて、CloudFront経由で公開される流れです。

現在のコンテンツ運用フローについて教えてください。
-宮嵜さん
記事を作成する場合は、Notionなどで事前に作成した原稿をmicroCMSに入稿していきます。LPの場合は、いきなりmicroCMSに入稿するケースもありますね。入稿作業後は、画面プレビュー機能で社内共有してレビューを行い、問題なければ公開します。
コンテンツ制作の担当者が特に決まっているわけではなく、microCMSを直接触らない人も含めればコンテンツ運用に携わるのは全部で30名ほどです。マーケティングのメンバーだけではなく、プロダクトマネージャーや事業開発のメンバーなども一緒になってLPを作成するため、関わる人間は自然と増えています。
導入の効果:開発効率とマーケティング施策の大幅な改善
microCMSの導入で、どのような効果が得られましたか?
-佐川さん
エンジニアが記事更新に対応する工数がほぼゼロになりました。以前は記事を出すためにはエンジニア対応が必須でしたが、今はエラーなど特殊なケースが発生しない限りは作業する必要がありません。エンジニアが何もしなくてもコンテンツ運用が勝手に回っていく様子を目の当たりにしたときは、正直ちょっと感動しましたね。
-宮嵜さん
週に1度しか記事を公開できなかった状況が、24時間365日いつでも公開や修正ができるようになりました。記事を出すタイミングが自由になったことで、行政の動きやニュースなどの時勢を取り入れた施策もかつてより実施しやすくなっています。
組織の規模が拡大したこともありますが、記事公開本数は導入前の2倍以上に増加しました。以前の運用体制のままでは、この記事数には対応できなかったと思います。

-佐川さん
記事生成のための環境に汎用的な技術を採用できたことは保守性の向上につながっていると感じています。新しいエンジニアが参画する場合でも比較的キャッチアップしやすく、属人的になりにくい状況となっているのは安心できます。
予約投稿機能があるのも助かっていますね。プレスリリースなど公開日時を指定したい場合、以前はエンジニアがシステムに張り付いていないと実現できませんでした。運用コストも保守コストも大きく改善しています。
職種それぞれのやるべきことに集中できるツール
今後、microCMSをどのように活用していきたいですか?
-宮嵜さん
コンテンツ運用に負荷をかけずに、記事やLPからのマーケティングリードの獲得を増やしていけるといいですね。記事の共通部分をテンプレート化してAPIで呼び出すような形式にすれば、複数の記事をまとめて修正するときなどの作業効率が改善されるはずです。microCMSの導入で記事更新の自由度が上がった分、マーケティングの訴求改善サイクルをさらに高速で回していきたいと思います。
-佐川さん
エンジニアはエンジニアのやるべきことに、マーケターはマーケターのやるべきことに集中できるようにするツールとして、今後もmicroCMSを活用していきたいです。
最近、アイブリープロダクト内のお知らせ機能でもmicroCMSを活用するようにしたのですが、これは社内から「ここにもmicroCMSを使ったら便利になるのでは」という声が上がったために導入することになったんですよね。この例に限らず、「こんな使い方はできないだろうか」といった意見が上がりやすくなりました。microCMSの良さを実感できているからこそ、問題解決をするための手段としてmicroCMSを連想しやすくなっているのだと思います。

microCMSに期待する機能や要望があれば教えてください。
-佐川さん
AIを活用してスキーマ作成を自動化できたら便利そうですね。例えば、部分的に文言が異なっているLPを2つ渡すとAIが差分を抽出し、そこを変数にしたフォームを組んでくれるような機能があったら嬉しいです。一つひとつのフィールドを設定してスキーマを作っていく作業は大変なので、既存のデータを渡すことでAIがいろいろ提案してくれるようになると、もっと使いやすくなると思います。
-宮嵜さん
最近実装されたnofollow属性の設定機能のように、細かく機能アップデートがあって助かっています。今後もさらに便利に使えるようなアップデートを続けていただければ嬉しいです。
取材協力:エディット合同会社(ライター:藤井亮一 撮影:関口佳代)