- 複数の制作会社にサイト管理を依頼しており、インフラやCMSなどの環境がバラバラだった
- スクラッチで開発したサイトは開発工数が膨大に
- グループ全体で同じシステムを使うことで、サイト管理が簡単になり運用が効率化
- サイトリプレイス時の開発工数は、スクラッチ開発と比較して10分の1程度にまで削減
- 約300店舗が自らコンテンツを更新し、サイネージとも自動連携されるように
静岡県西部に拠点をもつ遠鉄グループは、鉄道・バス運輸事業を起点とし、保険、不動産、百貨店、システム開発など幅広い事業を展開しています。グループ会社や提供商材ごとに運営されるWebサイトはおよそ50サイト。そのうちの20サイトでmicroCMSを導入し、残り30サイトも順次移行を進めています。
今回は、遠州鉄道株式会社 グループ経営推進本部 経営企画部営業推進課 ディレクター 石橋正義さんに、グループ全体のWebサイト統一管理とデジタルマーケティング推進の取り組みについてお聞きしました。
導入の背景:グループ各社でWebサイトの管理方法や利用技術がバラバラだった
microCMSを導入する前にはどんな課題がありましたか?
-石橋さん
遠鉄グループは多岐にわたる事業展開をしており、グループ会社ごとのコーポレートサイトやサービスサイト、求人サイトなどを合わせると約50のWebサイトを運営しています。
これまでは複数のWeb制作会社に分散して制作・保守を委託していたのですが、ドメイン、サーバー、SSL証明書といったインフラ部分の管理がまったく統一できていませんでした。グループのシステム会社のサーバーを利用しているサイトもあれば、制作会社にすべて任せているサイトもあるような状況です。CMS環境に関しても、WordPressやMovable Typeを使用していたり、制作会社の独自CMSが入っていたり、スクラッチで制作されていたりと本当にバラバラでした。
そこで2年ほど前に始まったのがWebサイトの管理手法を統一するプロジェクトです。サーバーやドメインなどのインフラ部分については、グループ会社である遠鉄システムサービスに管理を一任することに決まりました。
どのような経緯でmicroCMSと出会ったのでしょうか?
-石橋さん
ちょうどベトナムにオフショア開発拠点を設立した時期でもあり、現地のエンジニアと相談したところ、従来のオープンソースCMSにはセキュリティ面での懸念を指摘されました。プラグインアップデートの管理負荷などを考慮すると、グループ全体での統一利用には適さないというわけです。
そんなときにヘッドレスCMSという技術を知ったんです。前職でCMSの開発・販売に携わっていた経験があったため、ヘッドレスCMSの革新性をすぐに感じられたので、導入検討を始めました。海外製のサービスも検討したのですが、言語の壁もあり、日本語で利用できるmicroCMSに注目しました。

microCMSを選んだ決め手は何でしたか?
-石橋さん
一番の決め手は使いやすさでした。前職での経験もあり、CMSにとってUIや使いやすさがいかに重要かを痛感していました。他社のヘッドレスCMSも試したのですが、直感的に使えない部分がいくつかあったんです。また、同じ鉄道業界の大手私鉄会社にてmicroCMSの導入事例があったため、役員にも説明しやすかったという点も大きかったですね。
活用の状況:約300店舗がコンテンツを直接入稿しデジタルサイネージへも自動連携
どのようにmicroCMSを活用していますか?
-石橋さん
Webサイトごとに利用状況は異なりますが、基本的にすべてのコンテンツをmicroCMSで管理しています。技術的には、フロントエンドにはNuxt.jsを採用し、パブリッククラウドでホスティングしています。
遠鉄百貨店のサイトでは、社内担当者のほかに、入居している約300店舗のテナントにも投稿権限を付与しました。「店舗用」という共通のロールを作成し、それぞれのテナントでセール情報などのショップニュースを更新してもらっています。テナントからの情報はなるべくタイムリーに発信してほしいので、社内担当者のレビューを通さずに公開できるようにしています。

特徴的な活用方法があれば教えてください。
-石橋さん
百貨店の施設内に設置しているデジタルサイネージに表示するコンテンツをmicroCMSのAPIで自動生成しています。Webサイト掲載用に投稿されたショップニュースなどを取得し、サイネージ用に加工するAPIスキーマを設定しました。テナントにとっては追加作業をする必要がなく、店舗の目の前にあるサイネージに自分たちの投稿が表示されるので、モチベーション向上にもつながっていますね。従来のCMSではこうしたシームレスな連携は難しかったのではないかと思います。
導入の効果:Webサイトのリプレイスにおける実装工数は10分の1程度削減、運用効率も大幅向上
microCMSの導入で、どのような効果が得られましたか?
-石橋さん
最も大きな効果は実装フェーズの短縮ですね。アジャイルに開発を進められることが特にメリットです。従来は仕様設計をしっかり計画してから作り始める必要がありましたが、microCMSならどんどん設定を進めていけますし、「ちょっと違うな」と感じたらすぐに変更もできます。制作途中のWebサイトに対するフィードバックにすぐに対応できるため、結果的に開発スピードが上がりました。
実は、microCMSの導入前にあるグループ会社のWebサイトをスクラッチでリプレイスしたのですが、実装フェーズだけで1年かかってしまったんですよね。リプレイス以前のCMSが複雑な構成をしていたこともあり、ベトナムの開発チームとのコミュニケーションコストも高かったんです。あの当時にmicroCMSを導入していたら、10分の1程度の工数で十分にできたと思います。

-石橋さん
管理画面の使いやすさも向上しました。以前は画像をドラッグ&ドロップでアップロードできなかったり、カテゴリーやタグの追加を別画面で設定する必要があったりと直感的ではありませんでしたが、microCMSのおかげで機能性が大幅に改善されています。
リニューアル後のサイトを各事業部やグループ会社などに引き渡すときにも、簡単な操作説明をレクチャーするだけですぐに使いこなせてもらっている印象です。
また、遠鉄グループ全体で統一のプラットフォームを使うことで、管理の効率性も大幅に向上しています。以前はUIも操作方法もバラバラだったため、Web担当者への教育コストも余分にかかっていたわけですが、今後はそうした課題も解決されていくでしょうね。
全サイト移行を推進し、ヘッドレスCMSの利点を活かした継続的な改善を目指す
今後のmicroCMS活用計画について教えてください
-石橋さん
遠鉄グループで運営している50サイトすべてをmicroCMS移行することが目標です。現在は約20サイトが完了しており、残りのサイトも順次移行を進めていきます。
これまでは遠鉄百貨店のサイトをmicroCMSのBusinessプランで、その他のサイトについてはTeamプランを個別契約していましたが、グループ全体でEnterpriseプランに切り替えることになりました。より高度な管理機能やセキュリティ機能などを活用し、さらに効率的な運用を実現したいと考えています。
すべてのサイト移行が完了した頃には、最初にリプレイスしたサイトが古くなっているでしょうね(笑)。でも、そのときこそヘッドレスCMSの真価が発揮されるはずです。従来のサイトリニューアルでは、フロントエンドもバックエンドもセットでの大規模改修が普通でしたが、microCMSで構築したサイトなら、フロントエンドのみを独立して再構築することができます。コンテンツを保持したままで、そのときの最新フレームワークに移行したりデザインを刷新したりすることも可能です。理想的なWebサイトの運営方法だと思います。

Webサイトの運用管理に課題を感じている企業へのアドバイスをお願いします。
-石橋さん
SNSなど新しい顧客接点が普及していますが、Webサイトは今後も重要なコミュニケーションツールであり続けると思います。従来は開発工数や運用コストなどの課題があり、時代に合わせてWebサイトを柔軟に変化させていくのは難しかったのですが、microCMSはこうした課題をほぼ全て解決してくれています。いろいろな選択肢はありますが、microCMSは非常におすすめできるCMSだと思います。
取材協力:エディット合同会社(ライター:藤井亮一 撮影:関口佳代)